仮差押え
第0 目次
第2 仮差押命令が発令されるまでに必要な時間等
第3 仮差押命令に必要な担保
第4 仮差押えと法定地上権
第5 債務名義を有している場合の仮差押え
* 供託書正本の取扱いについて(平成17年2月28日付の最高裁判所総務局第三課長及び経理局監査課長の事務連絡)を掲載しています。
第1 仮差押えの概要
1 仮差押命令とは,金銭債権の執行を保全するために、債務者(=相手方)の財産処分に一定の制約を加える地方裁判所(民事保全法12条1項)の決定をいいます。
2 仮差押命令は,債務者が所有し,かつ,債務者の名義となっている①土地建物,②預貯金,給料債権,ゴルフ会員権その他の債権,③動産等を対象として行われます。
3 土地建物に対する仮差押命令は比較的簡単に出してもらえますものの,債権に対する仮差押命令はなかなか出してもらえませんし,動産に対する仮差押命令はまず出してもらえません。
なぜなら,後者になるほど,債務者の生活なり事業活動なりに与える影響が大きくなるからです。
4 請求債権の存在及び仮差押えの必要性の両方について裁判官の理解を得られなかった場合,①追加の書証なり,足りない事情を補足説明した主張書面(民事保全規則9条4項参照)なりの提出を要求される結果,発令までに時間がかかることになりますし,②最悪の場合,仮差押命令の申立てを却下されます。
②の場合,即時抗告はできます(民事保全法19条)ものの,認められることは難しいです。
5 仮差押命令を発令してもらったとしても,債務者が請求債権と同額の仮差押解放金(民事保全法22条1項)を供託した場合,仮差押命令が取り消されます(民事保全法51条1項)。
ただし,仮差押の効力は,仮差押債務者が取得する仮差押解放金の取戻請求権の上に移行することとなります。
6 仮差押命令に対して債務者が保全異議の申立て(民事保全法26条)という不服申立手段をとった場合,改めて裁判所による審理を受けることとなります。
また,保全異議の申立てについての裁判に対しては,保全抗告(民事保全法41条)で争うことができます。
7 仮差押命令は,確定判決等に基づく差押えと異なり債務者の財産処分に一定の制約を加えるものに過ぎませんから,①不動産をお金に換えたり,銀行から預金を取り立てたりすることまではできませんし,②担保権の設定を意味するわけでもありませんし,③債務者が破産した際に優先弁済権を取得できるわけでもありません。
そのため,仮差押命令は,債務者の財産隠しを防ぐことで判決を取得した後の強制執行の実効性を確保したり,債務者に圧力をかけることで早期に債権者との間で和解する気にさせたりするために行うものです。
8 仮差押事件の記録は,当事者を含む利害関係人の閲覧・謄写の対象となります(民事保全法5条)。
9 ①仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続しますし,②仮差押えの被保全債権につき本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押えによる時効中断の効力が消滅するとはいえません(最高裁平成10年11月24日判決)。
10 債権の仮差押えを受けた仮差押債務者は,当該債権の処分を禁止されるから,仮
差押債務者がその後に第三債務者との間で当該債権の金額を確認する旨の示談をし
ても,仮差押債務者及び第三債務者は,仮差押債権者を害する限度において,当該
示談をもって仮差押債権者に対抗することができません(最高裁令和3年1月12日判決)。
第2 仮差押命令が発令されるまでに必要な時間等
1 仮差押命令は,順調に行けば,申立てをしてから2,3日程度で発令されますところ,手続の流れの概要は以下のとおりです。
① 仮差押命令の申立書を提出する(大阪地裁の場合,第1民事部が担当部署です。)。
② 裁判官との面談(午前10時から午前12時,及び午後1時30分から午後3時30分までの間で,30分の枠で面談時間が決まっています。)で,請求債権の存在,仮差押えの必要性等について説明する(通常は,申立書提出の翌日か翌々日)。
③ 裁判官から,担保として法務局に供託する必要のあるお金(詳細については後述します。)の額を聞き,そのお金を現金で法務局(大阪法務局の場合,大阪府庁の近くにあります。)に供託する。
④ お金を供託した際に,法務局でもらった供託書正本を裁判所に提出する。
午後4時までに供託書正本を提出できれば,当日付で仮差押命令を発令してもらえますものの,午後4時を超えた場合,翌日付で発令されます。
そのため,例えば,午後3時に裁判官との面談を行った場合,午後3時30分頃に裁判官との面談が終了した後に大阪法務局まで往復した上で,午後4時までに供託書正本を裁判所に提出するのは物理的に不可能ですから,仮差押命令の発令は翌日付になります。
⑤ 仮差押命令が発令されると,不動産の仮差押えであれば法務局に,債権の仮差押えであれば第三債務者(例えば,預金の場合は銀行であり,ゴルフ会員権の場合はゴルフ場の運営会社。)に送達されますところ,その時点で,債務者は不動産なり預貯金なりゴルフ会員権なりを処分することができなくなります(民事保全法50条5項・民事執行法145条4項)。
ただし,仮差押命令の送達よりも前に債務者が不動産の所有権移転登記手続をしていたり,銀行預金を下ろしていたり,ゴルフ会員権の所有名義を変更したりしていた場合,仮差押命令は失敗に終わることとなります。
2 仮差押命令が発令された場合,同時に,第三債務者に対する陳述の催告が行われます(民事保全法50条5項・民事執行法147条1項)から,発令されてから2週間以内に,仮差押えが成功したかどうかが分かります。
第3 仮差押命令に必要な担保
1 仮差押命令を発令してもらう場合は通常,請求債権の種類に応じ,仮差押目的物又は請求債権のいずれか多い方の1割から3割程度のお金を法務局に供託する必要があります(民事保全法14条1項,4条1項)。
これは,①請求債権の存在が本案訴訟で認められず,かつ,②仮差押命令によって債務者に損害が発生した場合に,債務者に支払うべき損害賠償金の担保となるものです。
そのため,提出した証拠に基づき,請求債権の存在が確実であると裁判所に思われれば思われるほど,裁判所から要求される担保の額は小さくなります。
2 仮差押命令に必要な担保として法務局に供託したお金(=供託金)を後日,取り戻すためには,おおよそ以下の期間が必要となりますので,この期間中に必要なお金を使って仮差押命令の申立てをすることはご遠慮下さい。供託物取戻請求に必要な供託原因消滅証明書(供託規則25条1項本文)を裁判所に発行してもらうには,それなりの時間が必要になるわけです。
① 担保の事由が消滅した場合(民事保全法4条2項・民事訴訟法79条1項),1ヶ月程度かかります。
担保供与の必要性が消滅したこと,つまり,被担保債権が発生しないこと又はその発生の可能性がなくなったことをいい(最高裁平成13年12月13日決定),例としては,全部勝訴判決が確定した場合があります。
② 担保の取消しについて債務者の同意がある場合(民事保全法4条2項・民事訴訟法79条2項),1週間程度かかります。
例としては,(a)担保の取消しに対する同意及び(b)抗告権放棄に関する事項も含めて,訴訟上の和解を成立させた場合があります。
③ 仮差押命令の申立てが失敗に終わった場合(担保の簡易の取戻し。民事保全規則17条),3日程度かかります。
例としては,土地建物について仮差押の登記ができなかったり,第三債務者に対して仮差押命令を送達できなかったりした場合があります。
ただし,第三債務者に対して仮差押命令が送達されたものの,(a)債務者が銀行に預金を持っていなかったとか,(b)債務者がゴルフ会員権を既に処分していたというような場合,条文上の要件である「債務者に損害が生じないことが明らかである場合」に該当しませんから,③の場合に当てはまりません。
④ 権利行使催告手続による場合(民事保全法4条2項・民事訴訟法79条3項),2ヶ月程度かかります。
①ないし③のいずれにも当てはまらない場合,この手続によることとなります。
ただし,本案訴訟が係属している場合,本案訴訟を取り下げるか,又は本案訴訟の判決が確定しない限り,権利行使催告手続を利用することはできませんから,本案訴訟が係属しているときに仮差押命令を申し立てた場合,本案訴訟が終了するまで担保の取戻手続を利用することはできません(民事訴訟法79条3項「訴訟の完結後」参照)。
3(1) 仮差押命令を発令してもらったことにより債務者に損害が発生し,かつ,それが裁判所の確定判決等によって認められた場合,供託金は損害賠償金として債務者に支払われますから,取り戻せなくなります。
不動産の仮差押えの場合,問題となることは少ないですが,預貯金なり給料債権なりの仮差押えを行う場合,この危険が現実のものとなることがあります。
(2) 仮差押命令の発令により損害を受けた債務者は,「1 原告が,被告に対し,大阪地方裁判所平成29年(ヨ)第〇〇〇号仮差押命令を原因として,〇〇〇万円の債権を有することを確認する。2 訴訟費用は被告の負担とする。」を請求の趣旨として,損害賠償債権確定請求事件を提起して勝訴の確定判決を取得できれば,供託金還付請求権を取得できるようになります。
(3) 仮差押えをした場合に発生する可能性がある損害賠償請求権については,外部HPの「不当な仮差押命令に関する損害賠償請求についての近時の裁判例」が参考になります。
4 取り戻した供託金の受領方法は通常,以下の二つです。
① 日銀小切手の振出(供託規則28条1項後段)
→ 法務局の窓口で小切手を受領し,これを日本銀行大阪支店等で支払のために呈示して現金を受領することとなります。
② 預貯金振込みの方法(供託規則22条2項5号参照)
→ 法務局から直接,依頼者名義の預貯金口座に振り込んでもらうこととなります。
第4 仮差押えと法定地上権
第5 債務名義を有している場合の仮差押え
1 仮差押命令は,民事訴訟の本案の権利の実現が不能あるいは困難となることを防止するために,債務者の責任財産を保全することを目的とする民事保全処分であり,金銭の支払を目的とする債権について,強制執行をすることができなくなるおそれ又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができるとされている(同法20条1項)。したがって,債権者が被保全債権について確定判決等の債務名義を有している場合には,債権者は,遅滞なくこの債務名義をもって強制執行の手続をとれば,特別の事情がない限り,速やかに強制執行に着手できるのが通常であるから,原則として,民事保全制度を利用する権利保護の必要性は認められないというベきである。
他方,仮差押命令の目的が前記のとおりであることに照らすと,債権者が被保全債権について債務名義を有している場合であっても,債権者が強制執行を行うことを望んだとしても速やかにこれを行うことができないような特別の事情があり,債務者が強制執行が行われるまでの間に財産を隠匿又は処分するなどして強制執行が不能又は困難となるおそれがあるときには,権利保護の必要性を認め,仮差押えを許すのが相当であるというべきである。
2 これを本件についてみると,抗告人は,破産者株式会社Aの破産管財人であり,破産者の有する執行力のある債務名義(公正証書)により本件仮差押債権に対し債権執行を行なうには,抗告人への承継執行文を得て,かつ,これを公証役場から相手方に送達し,その送達証明書を添付して債権執行の申立てを行なわなければならない。そうすると,承継執行文付きの公正証書が相手方に送達されることにより,相手方は,抗告人が強制執行の準備をしていることを予想することが可能となり,相手方において,本件仮差押債権を譲渡したり,また,本件仮差押債権の弁済期限が平成24年12月10日であることから,第三債務者から弁済を受けるまで送達を受領しない等するおそれがあるというべきであるから,債権者において,債権執行を速やかに行なうことができず,これが不能又は困難となるおそれがあり,上記特別な事情がある場合に当たると認めるのが相当である。したがって,本件申立てについては,仮差押えの権利保護の必要性があると認めるのが相当である。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。