分限裁判及び罷免判決の実例

第0 目次

第1の1 分限裁判の実例1/7(昭和時代)
第1の2 分限裁判の実例2/7(旅費不正の監督不行届)
第1の3 分限裁判の実例3/7
第1の4 分限裁判の実例4/7(寺西判事補事件)
第1の5 分限裁判の実例5/7(古川龍一事件)
第1の6 分限裁判の実例6/7
第1の7 分限裁判の実例7/7(岡口基一事件)
第2の1 裁判官分限法
第2の2 裁判官の分限事件手続規則
第3   罷免判決の実例
第4   新63期の華井俊樹裁判官に対する平成25年4月10日付の罷免判決
第5   昭和57年10月7日の,矢口洪一最高裁判所事務総長の国会答弁

*0 昭和24年7月16日発生の最高裁判所誤判事件では,三淵忠彦最高裁判所長官が,同年10月17日,誤判に関与した4人の最高裁判所判事に対して辞職勧告をしたものの,4人とも辞職しませんでした。
   そのため,最高裁大法廷昭和25年6月24日決定(裁判所HPには掲載されていません。また,朝鮮戦争の発生前日に出されたものです。)により過料1万円の懲戒処分を受けました。
*1 以下の記事も参照してください。
① 裁判官の職務に対する苦情申告方法
② 法務省出向中の裁判官の不祥事の取扱い
③ 柳本つとむ裁判官に関する情報,及び過去の分限裁判における最高裁判所大法廷決定の判示内容
*2 以下の資料を掲載しています。
① 国家公務員の服務・懲戒制度(平成24年度版)
② 国家公務員の服務・懲戒制度(平成29年度版)
③ 裁判所職員倫理審査会規則(平成12年2月10日最高裁判所規則第5号)
④ 下級裁判所の裁判官の倫理の保持に関する申合せ(平成12年6月15日付の高等裁判所長官申合せ)
*3 裁判所の一般職職員(例えば,裁判所書記官,裁判所事務官及び家庭裁判所調査官)に対する懲戒の公表基準については,裁判所HPの「懲戒処分の公表指針」に載っています。
*4 罷免判決につき,裁判官訴追委員会HP及び裁判官弾劾裁判所HPが参考になります。
*5 衆議院HPに「裁判官弾劾裁判所及び裁判官訴追委員会に関する資料」(平成25年5月に衆議院憲法審査会事務局が作成した資料)が載っています。
*6 「分限裁判の記録 岡口基一」ブログに,岡口基一裁判官の分限裁判に関する書類が掲載されています。
*7 内閣官房HP「国家公務員の服務・勤務時間」に,国家公務員倫理法,一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律,育児休業,育児短時間勤務,自己啓発休業,配偶者同行休業に関する資料等が載っています。
*8 平成30年8月28日付の司法行政文書不開示通知書によれば,分限裁判の手続を定めた内部のマニュアルは存在しません。
*9 弁護士を含む士業の懲戒については,「弁護士の懲戒」を参照してください。
*10 古川龍一事件及び岡口基一事件のように,高等裁判所裁判官に対する分限裁判については,最高裁判所が一審かつ終審の裁判所として分限裁判を行います(裁判官分限法3条2項1号)。
   これに対して明治憲法時代では,控訴院長及び控訴院部長以外の控訴院判事については,控訴院が第一審となり,大審院が終審として懲戒裁判をしていました(判事懲戒法15条第2)。
平成30年7月24日付の,岡口基一裁判官に対する懲戒申立書

第1の1 分限裁判の実例1/7(昭和時代)

   高輪1期以降の裁判官についてこれまでに出された分限裁判の実例のうち,昭和時代に出されたものは以下のとおりです。
   なお,執務不能を理由とする分限裁判は,最高裁大法廷昭和33年10月28日決定及び大阪高等裁判所昭和61年2月19日決定の2件だけです。
 
1 最高裁大法廷昭和33年10月28日決定(執務不能)(病気)
   抗告人の肺結核は治癒に近づいてはいるけれども,治癒したものとは断定し難く,痰の培養検査の結果微量ながら結核菌の存在が認められ,現状では勤務ができないものと認定するの外なく,このことと,従来7年間の余療養をつづけても現在なお治癒していないこととをあわせ考えれば,将来の治癒の時期についても予見はゆるされないのであって,抗告人は裁判官分限法1条1項にいう「回復の困難な心身の故障のために職務を執ることができない」者に該当するものとされた事例
 
2 大阪高等裁判所昭和43年9月6日決定(戒告)(事件放置)
   和歌山家庭裁判所田辺支部の少年保護事件の事件処理にあたり,同支部主任家庭裁判所調査官に調査を命じた事件につき,同調査官の事件処理能力を過信し,自ら担当事件全部を掌握して随時事件簿等によつて調査未済事件の進行状況を点検し,右調査官に対し調査事務の進捗につき注意を促す等の措置を怠ったため,同調査官をして,昭和41年4月20日から同43年2月7日までの間に,少年保護事件合計69件につき,調査に着手せず,あるいは一部着手のまま放置し,少年がそれぞれ成年に達するまでの間に調査を終了するか,または一応の結末をつけて調査結果を報告することを怠らせ,年令超過の結果を生じさせた事例
 
3 仙台高等裁判所昭和49年10月3日決定(戒告)(万引き)
   福島市のお店で,婦人服上下1着(時価9800円相当),乾電池2個(時価190円相当)及び男性用チック一個(時価280円相当)を窃取した事例
 
4 大阪高等裁判所昭和55年7月17日決定(戒告)(記録紛失)
   昭和55年5月23日午後5時ころ,担当の単独事件である民事第一審訴訟事件記録2冊を,自宅において判決起案のため黒色手提げ鞄に入れて退庁し,同じ民事部所属の裁判官2名とともに飲酒をしたのち,帰宅のため午後8時過ぎころ阪神電鉄梅田駅から乗車し,途中,同僚と分れて一人で甲子園駅で下車し,休憩の後,甲子園球場に立ち寄り,再び阪神電鉄で西宮駅に至り下車し,徒歩で翌5月24日午前2時ころ西宮市の宿舎に帰宅したが,その間,右事件記録2冊を黒色手提げ鞄とともに紛失したものであって,その後,関係各方面に照会する等鋭意調査したが,発見されなかった事例
 
5 札幌高等裁判所昭和55年10月27日決定(戒告)(飲酒時のケンカ)
   昭和55年10月16日,旭川地方・家庭裁判所留萌支部で同支部係属事件の処理を済ませた後,同支部勤務の裁判所職員数名と飲酒したところ,そのため著しく酩酊し,
① 同日午後10時45分ころ,宿泊先の留萌市所在のホテル一1階フロント内にいた夜警員にからみ,これを相手にしないでその場から逃がれようとした同人をフロントからロビーに引き出した上,いきなり,同人をその場に転倒させ,よって同人に対し約2週間の通院加療を要する左側胸部挫傷・左中指捻挫の傷害を負わせ,
② その後間もなく自室に戻ろうとした際,誤って宿泊客2名が在室している2階の部屋のドアを開け,同室内のベットに横臥中の同人の胸元に所携のキーホルダー及び火のついた煙草を投げつけ,
③ その結果一階ロビーにおいて宿泊客らから②の行動につき抗議されていた際,自分の前に立つていた男性を投げとばしてその場に転倒させ,よって同人に対し約5日間の加療を要する腰椎捻挫・右下腿部挫傷の傷害を負わせた事例
 
6 仙台高等裁判所昭和56年7月25日決定(戒告)(破産事件への介入)
「被申立人は、昭和42年4月7日判事補に、同52年4月7日判事に任命され、同54年4月1日以降現職にあるものである。
被申立人は、東京地方裁判所民事第20部(破産部)に所属していた同51年10月12日新日本興産株式会社に対する破産申立事件につき、担当裁判官として同会社の破産宣告の決定をし、同時にその破産管財人に弁護士井上恵文を選任し、同52年3月末ごろ同裁判所の他の部に転ずるまで、当該破産事件を担当してその手続に関与したものであるが、その後同弁護士において、当該破産財団に属する栃木梓ゴルフ場を換価処分するにつき、自ら新会社を設立したうえ、同会社に右ゴルフ場を買い取らせてこれを経営することを計画し、同55年夏ごろ、同弁護士から被申立人に対してもその買受資金を調達するについての協力を要請されたので、被申立人はこれに応ずることとし、同弁護士の右資金調達に協力する意思をもつて、
第一 昭和55年8月28日東京都港区赤坂二丁目二番十九号アドレスビル八階井上恵文法律事務所において、同弁護士に対し、現金300万円を交付してこれを貸与し、
第二 その際同所において、同弁護士に対し、同弁護士が銀行から融資を受けるに当たり、自己所有の別紙物件目録記載の各土地を担保に提供することを承諾のうえ、右各土地のうち(イ)(ロ)(ニ)の分の登記済証及び被申立人の署名押印のある白紙委任状を交付し、よつて同弁護士をして所定の手続をとらせ、同年9月30日株式会社協和銀行との間に、右各土地につき、根抵当権者を同銀行、債務者を井上恵文、債権極度額を一億円とする根抵当権設定契約を締結するとともに、前記(イ)(ロ)の各土地については同年10月3日、(ニ)の土地については同月8日、それぞれ右根抵当権の設定登記手続をし、
第三 そのころ同弁護士に対し、同弁護士が銀行から融資を受けるに当たり、保証することを承諾のうえ、必要書類に署名押印してこれを交付し、よつて同弁護士をして所定の手続をとらせ、同年9月30日同弁護士が右協和銀行との間で金五千万円の金銭消費貸借契約を締結するに際し、同銀行に対し、右契約に基づく同弁護士の債務の保証をし、
第四 同年9月22日鶴岡市所在の株式会社山形銀行鶴岡支店から株式会社第一勧業銀行赤坂支店の井上恵文の口座に、妻名義で金300万円の送金をして、これを同弁護士に貸与した」事例
 
7 福岡高等裁判所昭和58年2月22日決定(戒告)(酒気帯びの執務)
   昭和57年7月ころから早朝飲酒することがあったため,酒のにおいを残したまま登庁することがあったところ,同年11月15日午前4時ころから午前6時ころまでの間に清酒約0.36リットルを飲み,同日午前10時ころ,酒気を帯びていることが事件関係者に容易に覚知される状態で,仮処分申請事件の係争現場に赴いて執務した事例
 
8 大阪高等裁判所昭和58年3月11日決定(戒告)(記録紛失)
   昭和58年1月27日,大阪地裁の配属部係属中の事件である民事第一審訴訟事件記録3冊を自宅において調査,判決起案するため,ビニール製手提鞄及び同ショルダーバッグに入れて自家用普通乗用自動車に積み,これを運転して池田市の自宅への帰途,同日午後5時少し前ころ,ゴルフ練習のため豊中市所在のゴルフセンターに立ち寄ったが,助手席に右手提鞄とシヨルダーバッグを重ねて置き,その上に折りたたんだ上衣を置いたままの状態で右自動車を同ゴルフセンターの無人無料の青空駐車場に駐車させたまま,午後5時ころから午後6時半ころまで同ゴルフセンターの練習場でゴルフの練習をしていたため,その間に何人かに右手提鞄及びショルダーバッグ等を窃取されて,在中の前記記録3冊を紛失したものであって,その後大阪府豊中警察署の派出所に盗難被害を届け出て鋭意捜索に努めたが,右の記録が発見されなかった事例
 
9 東京高等裁判所昭和58年9月7日決定(戒告)(万引き)
   昭和58年7月9日午前11時20分ころ、埼玉県浦和市のお店において、象印ステンレスサーモス一個(商品名タフボーイ,定価3980円)を窃取した事例
 
10 東京高等裁判所昭和58年12月6日決定(戒告)(記録紛失)
   昭和58年9月30日午後8時ごろ,東京地方裁判所民事第11部に係属中で自分が担当している地位保全等仮処分申請事件の事件記録2冊を,自宅において決定書起案のため通勤用の茶色手提げかばんに入れて退庁したが,帰宅途中国電有楽町駅付近の居酒屋に立ち寄って飲酒し,その後の行動についての記憶がつまびらかでないほどに深酔いした結果,同夜右事件記録2冊を手提げかばんとともに紛失し,その後関係各方面の協力を得て調査を尽くしたが,発見されなかった事例
 
11 最高裁判所大法廷昭和59年7月27日決定(戒告)(万引き)
   昭和59年7月4日午後5時15分ころから同5時30分ころまでの間に,東京都中央区の本屋内において,書籍2点(定価合計3800円)を窃取した事例
 
12 大阪高等裁判所昭和61年2月19日決定(執務不能)(失踪)
   昭和61年1月初めころ,休暇願及び旅行届を提出することなく,その居住する大阪府池田市の裁判所宿舎から出奔し,同年1月13日午後5時30分宮崎県日向市細島港発大阪港行日本カーフエリー株式会社運航のカーフエリーせんとぽーりあ(5,960トン)の特等室に乗船し,翌14日午前8時30分大阪港に入港した同船の右客室に手荷物を遺留したまま消息を絶って行方不明になった事例

第1の2 分限裁判の実例2/7(旅費不正の監督不行届)

〇会計検査院の調査により,平成2年度に7つの裁判所の裁判官や裁判所職員が,出張が予定より早く終わったことを清算せずに合計約1970万円の出張費用を不正に受給していたことが平成3年11月に判明したため,最高裁判所は内部調査を進め,受給者から返済を受けるなどして全額を国庫に返納しました(外部HPの「最高裁における「「信頼」の文脈-「裁判所時報」における最高裁長官訓示・あいさつにみる-」18頁(124頁)及び19頁(125頁)参照)。
会計検査院検査報告データベース平成2年度決算検査報告「旅費の経理が適正を欠くと認められるもの」には以下の記載があります。
1 旅費支給の概要
東京、水戸、宇都宮、広島、福岡各地方裁判所及び宇都宮、福岡両家庭裁判所において、平成2年度に、職員の公務出張に対し総額131,059,553円の旅費を支払っている。
2 検査の結果
上記の旅費について検査したところ、管内支部との事務打合せ等を用務とする近距離の出張について、日帰りの出張を1泊2日に付増ししたり、精算の事務手続を適切に行わなかったりしていたものが1,585件、同様に1泊2日の出張を2泊3日にしていたものが35件、計1,620件あった。この支払が適正を欠いていた旅費の合計額は19,731,250円である。
  なお、この旅費の金額については、3年11月末までに全額国庫に返納された。
〇平成3年12月になされた,旅費不正の監督不行届に関する分限裁判は以下のとおりです。
   以下の分限裁判の順番は,処分当時の裁判官の役職の順番です。
 
1 最高裁判所大法廷平成3年12月16日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという東京地方裁判所長の責務に反し,同裁判所において平成2年4月1日から同3年3月31日までの間に,同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計605万1050円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例
 
2の1 東京高等裁判所平成3年12月16日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという水戸地方裁判所長の責務に反し,同裁判所において平成2年4月1日から同3年1月4日までの間に,同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計115万2900円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例
 
2の2 東京高等裁判所平成3年12月16日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという水戸地方裁判所長の責務に反し,水戸地方裁判所において平成3年1月5日から同年3月31日までの間に、同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計47万1400円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例
 
3 東京高等裁判所平成3年12月16日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという宇都宮家庭裁判所長の責務に反し,同裁判所において平成2年4月1日から平成3年3月31日までの間に,同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計134万3400円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例
 
4の1 最高裁判所大法廷平成3年12月16日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという広島地方裁判所長の責務に反し,同裁判所において平成2年4月1日から同年8月31日までの間に,同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計93万7100円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例
 
4の2 広島高等裁判所平成3年12月13日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという広島地方裁判所長の責務に反し,同裁判所において平成2年9月1日から平成3年3月31日までに間に,同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計198万700円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例
 
5 福岡高等裁判所平成3年12月13日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという福岡地方裁判所長の責務に反し,同裁判所において平成2年8月5日から平成3年3月31日までの間に,同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計367万8450円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例
 
6 最高裁判所大法廷平成3年12月16日決定(戒告)
   旅費の支給に関し旅行命令に基づいた旅行内容と実際の旅行が同一のものであったか否かを確認し,また,旅費の支給が適正になされるよう職員を指導監督するという福岡家庭裁判所長の責務に反し,同裁判所において平成2年4月1日から同年8月31日までの間に,同裁判所の職員に対する旅費の支給のうち宿泊料等合計32万7100円について適正を欠く支給が行われるという事態を発生させた事例

第1の3 分限裁判の実例3/7

   旅費不正の監督不行届の後から寺西判事補事件の前までの分限裁判の実例は以下のとおりです。
 
1 東京高等裁判所平成5年3月5日決定(戒告)(記録紛失)
   平成5年1月14日夜,東京地方裁判所に係属中で自分が担当している事件の記録合計4冊を自宅で判決書起案をするために所持して帰宅する途中,電車内で眠り込んだ結果,右記録4冊を紛失した事例
 
2 大阪高等裁判所平成7年4月25日決定(戒告)(酒気帯び運転)
   平成7年4月14日午後11時3分ころ,酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で,神戸市兵庫区において普通乗用自動車を運転した事例
 
3 福岡高等裁判所平成9年4月25日決定(戒告)(判決原本の不作成)
   長崎地方裁判所佐世保支部在任期間中の平成9年1月21日から同年2月27日までの間に,13件の民事事件について,民事訴訟法189条1項に違背して,判決原本を作成しないまま判決原本に基づかずに判決を言い渡した事例
 
4 東京高等裁判所平成12年12月7日決定(戒告)(記録紛失)
   平成12年8月22日午後9時ころ,前橋家庭裁判所に係属している少年保護事件の決定書を起案するために,同事件の記録1冊を革製手提げ鞄に入れて退庁し,午後9時27分前橋駅発上野駅行きの普通電車に乗り込んだが,車内で眠り込んだ結果,右鞄とともに右記録1冊を紛失し,関係各方面においても調査を尽くしたが,右記録一冊が発見されなかった事例

第1の4 分限裁判の実例4/7(寺西判事補事件)

1   最高裁大法廷平成10年12月1日決定が認定した,懲戒の原因となる事実は以下のとおりです。

   抗告人は、本件集会において、パネルディスカッションの始まる直前、数分間にわたり、会場の一般参加者席から、仙台地方裁判所判事補であることを明らかにした上で、「当初、この集会において、盗聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加すれば懲戒処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」との趣旨の発言をし(以下、本件集会におけるこの抗告人の言動を「本件言動」という。)、本件集会の参加者に対し、本件法案が裁判官の立場からみて令状主義に照らして問題のあるものであり、その廃案を求めることは正当であるという抗告人の意見を伝えることによって、本件集会の目的である本件法案を廃案に追い込む運動を支援し、これを推進する役割を果たし、もって積極的に政治運動をして、裁判官の職務上の義務に違反した。

2   寺西判事補事件では,戒告となった抗告人寺西和史の代理人が1244人いました。

3(1) 憲法学習用基本判例集(須賀博志)HP「仙台高裁平成10年7月24日決定(裁判官懲戒処分事件)」,及び「最高裁大法廷平成10年12月1日決定(裁判官懲戒処分事件)」が載っています。
(2) 仙台高裁平成10年7月24日決定には,平成10年5月19日の第1回審問期日に関して,「開始早々、被申立人の代理人らが相次いで立ち上がり、本件の審理を一般公開にするか、少なくとも報道関係者の傍聴を許すよう執拗に要求し、時には通常の法廷では到底聞くことのない激しい調子の言葉を浴びせながら、この要求が容れられなければ実質的な審理には絶対に応じられないという態度をとり続けた。」などと書いてあります。
   また,同年6月12日の第2回審問期日に関して,「代理人らは、弁護士以外の者を含む50名余の代理人全員の入室を要求して、第1中会議室の入口付近において整理に当たっていた当庁職員に激しく食い下がり、収拾のつかない状態となった。」とか,「冒頭、裁判長が、本件審問手続を非公開とした理由を説明するとともに、主任代理人による発言整理に期待するが、手続の進め方については裁判長の訴訟指揮に従うように求める旨述べて、所定の手続に入ろうとしたところ、間髪を入れずに代理人らが相次いで発言をして、どのような順序で手続を進めるか分からないではないかとか、どうして入室する代理人の数を35名に制限したのかとか、審問を公開しない理由が依然理解できないとか、前回同様詰問調の論難を繰り返した上、異議の申立てをし、更に2件の特別抗告の申立て及び分限裁判手続執行停止の申立てをするとして、予め準備していた書面を裁判長の机上に提出したり、申立ての理由を口頭で述べ続けたりした。」などと書いてあります。

4(1) 仙台地裁が平成10年5月1日に寺西判事補の懲戒請求をしたことを受けて,日弁連は,同月22日,「寺西判事補への裁判官分限法に基づく懲戒の申立に関する会長声明」を出しました。
(2) 仙台高裁が平成10年7月24日に寺西判事補に対して戒告処分を出したことを受けて,日弁連は,同月31日,「寺西和史判事補に対する戒告処分決定に関する声明」を出しました。
(3) 最高裁が平成10年12月1日に寺西判事補の即時抗告を棄却したことを受けて,日弁連は,同月3日,「寺西判事補分限裁判の最高裁決定に関する会長声明」を出しました。

5(1) ちなみに,昭和45年6月18日,法務大臣が,法制審議会に対し,満18歳以上20歳未満の者は「青年」とした上で,青年の事件についての手続の大綱は刑事訴訟法その他一般の規定によるものとする少年法改正要綱を諮問したこと(NHK解説委員室HP「「少年法改正議論 年齢引き下げの是非」(時論公論)」参照)に対し,同日,当時の東京家裁所長であり,病気療養中であった宇田川潤四郎裁判官(昭和45年8月4日死亡。昭和24年1月1日から昭和32年1月4日までの間,最高裁判所家庭局長をしていました。)が,石田和外 最高裁判所長官に対し,「我々東京家庭裁判所の裁判官一同は,日々少年審判の実務を担当している経験と良心に基づき,本要綱が企図する少年法の根本的改正には,別紙の理由によりとうてい賛成することができない。」などとする反対意見を送りました家庭裁判所物語192頁及び193頁,並びに「少年の健全育成と年齢の引下げ」参照)。
(2) このような東京家裁所長らの行為は積極的な政治運動に当たらないものの,寺西和史判事補の発言が積極的な政治運動に当たるというのは変である気がします。

第1の5 分限裁判の実例5/7(古川龍一事件)

○いわゆる古川龍一事件関係の分限裁判は以下のとおりであり,古川龍一裁判官のほか,福岡高裁長官,福岡高裁事務局長及び福岡地裁所長が戒告となりました。
平成13年3月14日付の最高裁判所調査委員会報告書を含む関連資料が江田五月前参議院議員のHPの「福岡事件について」に掲載されています。
 
1 最高裁判所大法廷平成13年3月16日決定(戒告)
   「被申立人は,平成12年8月30日から福岡高等裁判所長官の職にある者である。
   平成12年12月13日,福岡簡易裁判所に対し,古川龍一福岡高等裁判所判事の妻である古川園子を被疑者とする差押許可状の請求があった。担当書記官は,被疑者が古川判事の妻であることに気付き,上司である渡辺仁士福岡地方裁判所刑事首席書記官にその旨の報告をした。同首席書記官は,担当書記官に指示して,令状請求関係書類のすべてをコピーさせた上,松元和博福岡地方裁判所事務局長に上記令状請求があり令状が発付された旨の報告をしたところ,同事務局長から依頼を受け更に2部のコピーをとって同事務局長に交付した。同事務局長は,コピー1部を小長光馨一福岡地方裁判所長に渡して報告した(コピーは,即日,同事務局長に返還された。)上,同所長の了解を得て,土肥章大福岡高等裁判所事務局長にコピーを1部交付し,報告した。同事務局長は,コピーを受領し,保管した。被申立人は,同事務局長から上記令状が発付され関係書類のコピーがとられた事実の報告を受けた。
   その後も平成12年12月22日,同13年1月9日,同月29日及び同月31日に園子を被疑者とする令状請求があり,渡辺首席書記官は,自ら令状請求関係書類の相当部分を3部コピーし,松元事務局長がコピー2部を受け取った上,1部を土肥事務局長に交付し,報告した。被申立人は,同事務局長から令状請求があった事実の報告を受けた」事例
 
2 最高裁判所大法廷平成13年3月16日決定(戒告)
「被申立人は,福岡高等裁判所判事で,平成10年4月6日から福岡高等裁判所事務局長の職にある者である。
    平成12年12月13日,福岡簡易裁判所に対し,古川龍一福岡高等裁判所判事の妻である古川園子を被疑者とする差押許可状の請求があった。担当書記官は,被疑者が古川判事の妻であることに気付き,上司である渡辺仁士福岡地方裁判所刑事首席書記官にその旨の報告をした。同首席書記官は,担当書記官に指示して,令状請求関係書類のすべてをコピーさせた上,松元和博福岡地方裁判所事務局長に上記令状請求があり令状が発付された旨の報告をしたところ,同事務局長から依頼を受け更に2部のコピーをとって同事務局長に交付した。同事務局長は,コピー1部を小長光馨一福岡地方裁判所長に渡して報告した(コピーは,即日,同事務局長に返還された。)上,同所長の了解を得て,被申立人にコピーを1部交付し,報告した。被申立人は,コピーを受領し,保管した。
   その後も平成12年12月22日,同13年1月9日,同月29日及び同月31日に園子を被疑者とする令状請求があり,渡辺首席書記官は,自ら令状請求関係書類の相当部分を3部コピーし,松元事務局長がコピー2部を受け取った上,1部を被申立人に交付し,報告した。
被申立人は,この間,松元事務局長に対し,令状請求関係資料のコピーをとって報告することの問題性を指摘せず,受領を続けた上,これを是正するための措置を執らなかった。」事例
 
3 福岡高等裁判所平成13年3月16日決定(戒告)
   「被申立人は,福岡地方裁判所判事で,平成11年9月10日から福岡地裁所長の職にある者である。
    平成12年12月13日,福岡簡易裁判所に対し,古川龍一福岡高等裁判所判事の妻である古川園子を被疑者とする差押許可状の請求があった。担当書記官は,被疑者が古川判事の妻であることに気づき,上司である渡辺仁士福岡地裁刑事首席書記官にその旨報告した。同首席書記官は,担当書記官に指示して,令状請求関係書類のすべてをコピーさせた上,松元和博福岡地裁事務局長に同旨の報告をしたところ,同事務局長から依頼を受け,更に2部のコピーをとって同事務局長に交付した。同事務局長は,コピー1部を被申立人に示して報告した上,被申立人の了解を得て,土肥章大福岡高裁事務局長にコピーを1部交付し,報告した。
   その後も平成12年12月22日,平成13年1月9日,同月29日及び同月31日に古川園子を被疑者とする令状請求があり,渡辺首席書記官は,自ら令状請求関係書類を3部コピーし,松元事務局長がコピー2部を受け取り,1部を被申立人に渡して報告した上(コピーは同事務局長に返還),その了解の下に1部を土肥事務局長に交付し,報告した。
    被申立人は,この間,松元事務局長に対して令状請求関係資料のコピーをとって報告することの問題性を指摘せず,報告を受け続けた上,これを是正するための措置を執らなかった。」事例
 
4 最高裁大法廷平成13年3月30日決定(戒告)
→ 古川龍一裁判官に関する認定の骨子だけを記載しています。
   裁判官が,妻に対する被疑事件の捜査が逮捕可能な程度に進行した段階において,事実を確認してこれを認めたならば示談をするようにとの趣旨で検事から捜査情報の開示を受けたのに対し,妻が事実を否認したことから,捜査機関の有する証拠や立論の疑問点,問題点等を記載した書面を作成し,妻及びその弁護に当たる弁護士に交付するなどした事例

第1の6 分限裁判の実例6/7

   いわゆる古川龍一事件以降の分限裁判の実例は以下のとおりです。
 
1 最高裁判所大法廷平成13年10月10日決定(戒告)(痴漢)
(1)   平成13年8月30日午後7時40分ころから同日午後7時53分ころまでの間にわたり,大阪市淀川区所在の阪急電鉄株式会社十三駅付近から兵庫県西宮市所在の同会社西宮北口駅付近までの間を進行中の阪急梅田駅発三宮駅行き通勤急行電車の車両内において,2人掛け座席の自席の右側に座っていた乗客の女性(当時24歳)に対し,右膝,右ふくらはぎを同人の左膝,左ふくらはぎに押し付け,右肘を同人の左肘に押し付けた事例
(2) 人民日報日文版に,朝日新聞の当時の記事を引用したと思われる「痴漢事件の前神戸地裁所長を起訴猶予「社会的制裁を受けた」」(平成13年9月21日付の記事)が載っています。
 
2 福岡高等裁判所平成25年10月8日決定(戒告)(セクハラ)
(1)   平成25年8月1日午前零時ころ,福岡市中央区所在の飲食店において,女性司法修習生1名及び男性5名とともにボックス式テーブル席に座って飲酒をしながら歓談中,同女に対し,キスをしたい旨複数回発言し,さらに,右手で同女の左手を引っ張って引き寄せるなどした上,同女の意に反して,2回にわたり同女の左頬にキスをした事例
(2) 弁護士ドットコムニュース「裁判官は「クビ」にならない!? 女性に無理矢理キスしても「戒告」で済む理由とは?」が載っています。

3 名古屋高裁平成30年6月28日決定(戒告)(判決原本の不作成)
(1) 平成29年4月17日から平成30年3月30日までの間に,36件の民事訴訟事件について,民事訴訟法252条に違反して,判決書の原本に基づかずに判決を言い渡した事例
(2) 名古屋の離婚専門弁護士HP「名古屋地裁判事の山崎秀尚氏、原本なしの「フィーリング」で判決!」(平成30年6月14日付)が載っています。
(3) 平成30年12月3日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります。本件議事録というのは,岐阜地家裁の山崎秀尚判事に対する懲戒申立てを決議した,平成30年6月12日の岐阜地方,家庭裁判所裁判官会議議事録のことです。
ア 本件議事録には署名及び押印が記載されており, これらの情報は,行政機関情報公開法(以下「法」という。)第5条第1号に規定する個人識別情報に相当する。
イ 本件議事録のア以外の不開示部分は,分限裁判の申立てにあたって提出された報告書の具体的な内容であり, これを明らかにすると,今後,人事上の措置を検討する事案において正確な事実関係を確認することができず,適切な人事上の措置を検討することができないなど公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある(法第5条第6号二) 。
   また,分限裁判は非公開手続で行われるにもかかわらず,その手続で提出された証拠内容が明らかになると,分限裁判の当事者において,関係者からの協力が得られず事実関係の調査が困難になるなどして,必要かつ十分な証拠が分限裁判に提出されなくなり,裁判所が行う今後の分限裁判の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある(同号柱書) 。
ウ よって,本件議事録につき,その一部を不開示とした原判断は相当である。
(4) 山崎秀尚岐阜地家裁判事の分限裁判に関して最高裁が作成し,又は取得した文書を掲載しています。

第1の7 分限裁判の実例7/7(岡口基一事件)

1 46期の岡口基一裁判官に対する懲戒請求
(1)ア 「分限裁判の記録 岡口基一」ブログに,岡口基一裁判官の分限裁判に関する書類が掲載されています
イ 平成30年9月27日付の東京高裁の司法行政文書不開示通知書によれば,「東京高裁が,岡口基一裁判官が管理している「分限裁判の記録」と題するブログに関して作成し,又は取得した文書」の存否を東京高裁が答えることはできません。
(2) 岡口基一裁判官が東京高等裁判所分限事件調査委員会に提出した,平成30年6月19日付の陳述書が「陳述書(東京高等裁判所分限事件調査委員会)」に載っています。
(3) 東京高等裁判所事務局長が東京高等裁判所分限事件調査委員会に提出した,平成30年7月4日付の陳述書が「申立人から疎明資料として「報告書」が提出されました 」に載っています。
(4)ア 岡口基一裁判官に対する懲戒申立書(平成30年7月24日付)の「申立ての理由」は以下のとおりみたいです(「懲戒申立書謄本です」参照)。
   被申立人は,裁判官であることを他者から認識できる状態で,ツイッターのアカウントを利用し,平成30年5月17日頃,東京高等裁判所で控訴審判決がされた犬の返還請求に関する民事訴訟についてのインターネット記事及びそのURLを引用しながら,「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,3か月くらい経って,もとの飼い主が名乗り出てきて,「返して下さい。」,「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しておきながら・・」,「裁判の結果は・・」との投稿をインターネット上に公開して,上記訴訟において犬の所有権が認められた当事者(もとの飼い主)の感情を傷付けたものである。
イ 「懲戒申立書謄本です」には以下の記載があります。
   分限裁判は、非公開の手続なのですが、東京高裁当局は、私に事前に確認することもなく、この懲戒申立てをしたこと及びその内容を、記者レクで、マスコミにリークしてしまいました(しかも、私の夏季休暇中に)。
   そのため、この申立書の内容は、非公開どころか、全国ニュース及び大新聞で報道され、国民の多くが知るところになっています。
ウ 岡口基一裁判官は「めぐちゃん事件」に関してツイートしたために懲戒請求されましたところ,現代ビジネスHP「置き去り犬「めぐちゃん事件」愛犬家の漫画家が憤った判決の理由」(平成30年6月2日付)が載っています。
   また,キャプチャーライフHP「放置された犬を保護して飼育 3カ月後に返還要求→また都合が悪くなったら捨てるだろうね。」が載っています。
エ ヤフーニュースの「裁判官がSNS発信で懲戒?最高裁大法廷が判断へ…岡口基一判事「裁判を受ける国民の皆さんにとって悲劇」」の動画1分42秒目によれば,岡口基一裁判官がツイッターで引用した記事は,sippo HP「放置された犬を保護して飼育 3カ月後に返還要求、裁判に発展」みたいです。
オ TKCローライブラリーに東京地裁平成29年10月5日判決(放置された犬の飼養者に対する飼い主からの犬の返還請求が認められた事例),及び最高裁大法廷平成30年10月17日決定(裁判官がツイッター上で投稿をしたことについて戒告がなされた事例)が載っています。
カ ウエストロージャパンHPに「第155号 ツイッター投稿における言動を理由とする裁判官の分限裁判~最高裁大法廷平成30年10月17日決定~」が載っています。
(5) 岡口基一裁判官が最高裁判所に提出した主張書面(平成30年8月30日付)が「最高裁に提出する主張書面 確定版です」に載っています。

2 最高裁大法廷平成30年10月17日決定(戒告)
(1)   岡口基一裁判官について戒告とした最高裁大法廷平成30年10月17日決定は,以下の判示をしています。
   裁判の公正,中立は,裁判ないしは裁判所に対する国民の信頼の基礎を成すものであり,裁判官は,公正,中立な審判者として裁判を行うことを職責とする者である。したがって,裁判官は,職務を遂行するに際してはもとより,職務を離れた私人としての生活においても,その職責と相いれないような行為をしてはならず,また,裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように,慎重に行動すべき義務を負っているものというべきである(最高裁平成13年(分)第3号同年3月30日大法廷決定・裁判集民事201号737頁参照)。
   裁判所法49条も,裁判官が上記の義務を負っていることを踏まえて,「品位を辱める行状」を懲戒事由として定めたものと解されるから,同条にいう「品位を辱める行状」とは,職務上の行為であると,純然たる私的行為であるとを問わず,およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね,又は裁判の公正を疑わせるような言動をいうものと解するのが相当である。
(2) 「懲戒の原因となる事実」は以下のとおりでした。
   被申立人は,平成30年5月17日頃,本件アカウントにおいて,東京高等裁判所で控訴審判決がされて確定した自己の担当外の事件である犬の返還請求等に関する民事訴訟についての報道記事を閲覧することができるウェブサイトにアクセスすることができるようにするとともに,別紙ツイート目録記載2の文言を記載した投稿(以下「本件ツイート」という。)をして,上記訴訟を提起して犬の返還請求が認められた当事者の感情を傷つけた。
   本件ツイートは,本件アカウントにおける投稿が裁判官である被申立人によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で行われたものであった。

3 岡口基一裁判官は過去に2度,私的にツイートした内容に関し下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意を受けていること等
(1)   朝日新聞HPの「ツイッターで不適切投稿 岡口裁判官の懲戒を申し立て」(平成30年7月24日付)には以下の記載があります。
   個人のツイッターで不適切な投稿をしたとして、東京高裁は24日、高裁民事部の岡口基一裁判官(52)について、裁判官分限法に基づき、最高裁に懲戒を申し立てた。高裁への取材でわかった。最高裁が今後、分限裁判を開き、戒告や1万円以下の過料などの懲戒処分にするかどうかを決める。
   岡口裁判官は1994年任官し、2015年4月から現職。自身のツイッターに上半身裸の男性の写真などを投稿したとして、16年に高裁から口頭で厳重注意処分を受けた。今年3月にも、裁判所のウェブサイトに掲載されていた事件の判決文のリンク先を添付して投稿し、遺族側から抗議を受けて文書による厳重注意処分となっていた。ツイッターは現在凍結され、発信できない状態になっている。
(2)ア 上記朝日新聞の報道内容は不開示情報である点で東京高裁職員にとって守秘義務の対象になる気がします(平成30年8月27日付の東京高裁の司法行政文書不開示通知書参照)が,東京高裁はなぜかマスコミ取材に回答したみたいです。
イ 司法修習生の守秘義務については,「司法修習生の修習専念義務,兼業・兼職の禁止及び守秘義務」を参照して下さい。

「特定の裁判官が,私的にツイートした内容に関し,第三者から抗議がなされた事実の有無」は不開示情報であること
   平成30年4月23日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には,「平成29年12月,東京高裁が岡口基一裁判官のツイートに関する抗議を受けた際に作成し,又は取得した文書」の存否を明らかにできない理由として以下の記載があります。
(3) 最高裁判所の考え方及びその理由
ア 本件開示申出に係る文書は,特定の裁判官が抗議を受けた際に作成又は取得した文書であるところ, 当該文書の存否を明らかにすると,「特定の裁判官が,私的にツイートした内容に関し,第三者から抗議がなされた事実の有無」という個人に関する情報が公になり, この情報は,法第5条第1号に規定する個人識別情報に相当する。
イ 本件抗議に関する報道は,原判断庁等が取材に応じた結果として,報道機関の責任において報道されたにとどまるものであって,裁判所として公表したものではないため,慣行として公にされている情報に該当しない。(法第5条第1号イ,平成29年度(情)答申第2号参照)
ウ よって,裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱記第5に基づき, 当該文書の存否を明らかにしないで不開示とした原判断は相当である。

5 「岡口基一裁判官に対する分限裁判」も参照してください。
最高裁判所事務総長の理由説明書1/2
最高裁判所事務総長の理由説明書2/2
平成30年8月27日付の東京高裁の司法行政文書不開示通知書(岡口基一裁判官を厳重注意処分とした際に作成した文書が存在するかどうかを明らかにすることはできないこと)

第2の1 裁判官分限法

裁判官分限法(昭和22年10月29日法律第127号)は以下のとおりです。

裁判官分限法

第一条(免官) 裁判官は、回復の困難な心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合及び本人が免官を願い出た場合には、日本国憲法の定めるところによりその官の任命を行う権限を有するものにおいてこれを免ずることができる。
○2 前項の願出は、最高裁判所を経てこれをしなければならない。
第二条(懲戒) 裁判官の懲戒は、戒告又は一万円以下の過料とする。
第三条(裁判権) 各高等裁判所は、その管轄区域内の地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所の裁判官に係る第一条第一項の裁判及び前条の懲戒に関する事件(以下分限事件という。)について裁判権を有する。
○2 最高裁判所は、左の事件について裁判権を有する。
一 第一審且つ終審として、最高裁判所及び各高等裁判所の裁判官に係る分限事件
二 終審として、高等裁判所が前項の裁判権に基いてした裁判に対する抗告事件
第四条(合議体) 分限事件は、高等裁判所においては、五人の裁判官の合議体で、最高裁判所においては、大法廷で、これを取り扱う。
第五条(管轄) 分限事件の管轄裁判所は、第六条の申立の時を標準としてこれを定める。
第六条(事件の開始) 分限事件の裁判手続は、裁判所法第八十条の規定により当該裁判官に対して監督権を行う裁判所の申立により、これを開始する。
第七条(裁判) 第一条第一項の裁判又は第二条の懲戒の裁判をするには、その原因たる事実及び証拠によりこれを認めた理由を示さなければならない。
○2 裁判所は、前項の裁判をする前に当該裁判官の陳述を聴かなければならない。
第八条(抗告) 高等裁判所が分限事件についてした裁判に対しては、最高裁判所の定めるところにより抗告をすることができる。
○2 抗告裁判所の裁判については、前条の規定を準用する。
第九条(手続の費用) 分限事件の手続の費用は、国庫の負担とする。
第十条(手続の中止) 分限事件の裁判手続は、当該裁判官について刑事又は弾劾の裁判事件が係属する間は、これを中止することができる。
第十一条(裁判手続) 分限事件の裁判手続は、この法律に特別の定のあるものを除いて、最高裁判所の定めるところによる。
第十二条(裁判の通知) 第一条第一項の裁判が確定したときは、最高裁判所は、その旨を内閣に通知しなければならない。
第十三条(過料の裁判の執行) 懲戒による過料の裁判の執行については、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第百二十一条の規定を準用する。

第2の2 裁判官の分限事件手続規則

   裁判官の分限事件手続規則(昭和23年6月7日最高裁判所規則第6号)は以下のとおりです。

裁判官の分限事件手続規則

第一条 裁判官に対する裁判官分限法(昭和二十二年法律第百二十七号)第一条第一項の裁判及び同法第二条の懲戒に関する事件(以下分限事件という。)の申立ては、書面をもつてこれをするものとする。
前項の申立書には、当該裁判官の官職、氏名及び申立ての理由を記載しなければならない。
申立裁判所は、分限事件の申立てをしたときは、速やかにその旨を最高裁判所に報告しなければならない。

第二条 裁判所は、分限事件の申立があつたときは、速やかに申立書の謄本を当該裁判官に送達しなければならない。

第三条 申立裁判所は、その裁判所を代表する裁判官を指定して審間に立ち会わせることができる。
申立裁判所が、前項の裁判官を指定したときは、速やかにこれを裁判所に届け出なければならない。

第四条 当該裁判官は、審間に立ち会うことができる。

第五条 審間の期日は、申立裁判所及び当該裁判官にこれを通知しなければならない。

第六条 分限事件について、高等裁判所がした終局裁判に対しては、申立裁判所及び当該裁判官は、最高裁判所に即時抗告をすることができる。即時抗告の期間は、これを二週間とする。
前項の抗告は、原裁判所に書面を提出してこれをしなければならない。

第七条 特別の定めのある場合を除いて、分限事件に関しては、その性質に反しない限り、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第二編及び非訟事件手続規則(平成二十四年最高裁判所規則第七号)の規定を準用する。ただし、同法第四十条の規定は、この限りでない。

第八条 高等裁判所は、分限事件について終局裁判をしたときは、速やかにその旨を最高裁判所に報告しなければならない。その裁判が確定したときも、また同様とする。

第九条 裁判所は、分限事件の裁判が確定したときは、その全文を官報に掲載して公示しなければならない。

第3 罷免判決及び資格回復決定の実例

○裁判官訴追委員会が罷免の訴追をして,裁判官の罷免判決が出た事例はこれまでに9件だけであり,高輪1期以降の裁判官が対象となったのは以下の5件だけであり,その内容は以下のとおりです(裁判官訴追委員会HPの記載を参照しています。)。

① 昭和52年3月23日罷免判決(裁判官弾劾裁判所HPの「弾劾裁判所の歴史/昭和50年代」参照)
   あたかも検事総長であるかの如く装って総理大臣に電話をかけ,同人に対し,いわゆるロッキード事件に関して虚偽の捜査状況を報告した上,前内閣総理大臣及び自民党幹事長の取り扱い方について直接の裁断を仰ぎたい旨申し向け,その言質を引き出そうと種々の問答を行い,その会話を録音した者があるところ,その録音テープの内容がニセ電話であること,また,その問答が新聞で報道されれば政治的に大きな影響を与えることを認識しながら,東京都内のホテルにおいて,新聞記者2人に同録音テープを再生して聞かせた,19期の鬼頭史郎裁判官(対象行為当時,京都地裁判事補)(検事総長ニセ電話事件)
→ 「罷免の裁判から5年を経過しており、請求者が留学するなどして法学の勉強を続け、法律家としての再起を望んでいること、他に適当な生計の道もないこと、罷免された後、非行のないことなどが認定でき、相当とする事由がある」ということで,昭和60年5月9日,資格回復決定が出ました。

② 昭和56年11月6日罷免判決(裁判官弾劾裁判所HPの「弾劾裁判所の歴史/昭和50年代」参照)
   破産事件を担当中,破産管財人である弁護士から,ゴルフクラブ2本,外国製ゴルフ道具1セット,キャディバッグ1個及び背広三つ揃2着の供与を受けた,25期の谷合克行裁判官(対象行為当時,東京地裁判事補)
→ 「罷免の裁判から5年を経過しており、請求者の主張する事実が認定でき、相当とする事由がある」ということで,昭和61年12月25日,資格回復決定が出ました。

③ 平成13年11月28日罷免判決(裁判官弾劾裁判所HPの「弾劾裁判所の歴史/平成元年以降」参照)
   少女3名に対し,同少女らが18歳に満たない児童であることを知りながら,対償として現金を供与することを約束して児童買春をした,38期の村木保裕裁判官(対象行為当時,東京高裁刑事部判事職務代行)

④ 平成20年12月24日罷免判決(裁判官弾劾裁判所HPの「弾劾裁判所の歴史/平成元年以降」参照)
   裁判所職員の女性に対し,その行動を監視していると思わせたり,名誉や性的羞恥心を害したりするような内容の匿名のメールを繰り返し送信したりして,ストーカー行為をした,36期の下山芳晴裁判官(対象行為当時,甲府地家裁都留支部判事)
→ 「罷免の裁判から7年以上を経過しており、その間、自己の過ちを深く反省し、法的素養と経験を生かしつつ弁護士として社会に貢献していきたいという確固たる意志を有するに至ったことなどから、人格の改善が認められ、相当とする事由があるとした。」ということで,平成28年5月17日,資格回復決定が出ました。

⑤ 平成25年4月10日罷免判決(裁判官弾劾裁判所HPの「弾劾裁判所の歴史/平成元年以降」参照)
   京阪電鉄京阪本線の寝屋川市駅から萱島駅(かやしまえき)までの間を走行中の電車内において,録画状態にした携帯電話機を女性乗客のスカートの下に差し入れ,下着を動画撮影した,新63期の華井俊樹裁判官(対象行為当時,大阪地裁判事補)

第4 新63期の華井俊樹裁判官に対する平成25年4月10日付の罷免判決

「新63期の華井俊樹裁判官に対する平成25年4月10日付の罷免判決」に移転しました。

第5 昭和57年10月7日の,矢口洪一最高裁判所事務総長の国会答弁

〇矢口洪一最高裁判所事務総長は,昭和57年10月7日の参議院決算委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1 ただいま柄谷委員から、近時裁判官の不祥事という御指摘がございまして、私どもといたしましても裁判所及び裁判官の信用を著しく傷つけた問題であるとしてまことに申しわけなく、遺憾に存じておる次第でございます。
2 私どもといたしましては、そのような不祥事が生起いたしました都度、必要に応じまして事務総局内に調査委員会を設けて、どうしてこういう不祥事が起こったのかといったような原因の究明に努めますとともに、不祥事を惹起いたしました裁判官につきましては、必要に応じて最高裁判所長官から裁判官訴追委員会に訴追の請求をするなど、必要な措置を講じてまいったわけでございます。
   と同時に、全国の裁判官に対しましては繰り返し自粛自戒を求めますとともに、各人が二度とこのようなことの起こらないように自粛自戒いたしまして、裁判所及び裁判官に対する国民の信頼を回復することに全力を挙げるべきであるということを呼びかけたわけでございます。
3 先月の三十日に退官いたしました服部前最高裁判所長官及び翌一日新たに就任いたしました現寺田最高裁判所長官、いずれも退任、就任のときに当たりまして国民にごあいさつを申し上げたわけでございますが、その中で不祥事の問題に触れまして、重ねて遺憾の意を表しますとともに、この上はいかなる手段を講じても信頼の回復に努めなければならないという決意を表明いたしております。前長官はその決意半ばで退任することを非常に心苦しく述べられたとともに、現長官は前長官の決意を受け継いでその施策に邁進するという所信を表明いたしたわけでございます。
4 事務総局といたしましても、長官のこの御決意というものを受けましていろいろの施策を講じてまいっております。
   裁判所及び裁判官に対する信頼なくしては裁判に対する信頼というものはあり得ないわけでございますので、もうこのことは重ねて申し上げるまでもないところでございますが、そのことのために事務当局といたしましてあらゆる努力を今後もいたしていきたいというかたい決意を持っております。
5 具体的な施策といたしましては、不祥事の起こります都度その原因の究明とともにこれまで講じてまいったわけでございますが、大きい点を一、二挙げてみますと、事件処理等の手続の問題といたしまして基本的に改められなければならないと考えられました破産事件、これは別の言葉で申しますと非訟事件というふうに申しておりますが、そういった事件の処理について全面的な見直しを行って対応策を改善したということが一つございます。
6 さらに、結局人の問題でございますので、裁判官の全般的な自粛自戒、その中に、職業倫理をさらに確立するという観点から司法研修所に新たに裁判官研修の専門の部門を新設いたしまして、これまで比較的若い判事補の裁判官それから簡易裁判所判事に限られておりました研修というものを全裁判官に及ぼしまして、中堅裁判官、高等裁判所あるいは地方、家庭裁判所の裁判長クラスの方あるいは支部長クラスの方、そういった方にも研修を行うということにいたしておるわけでございます。
7 なお、過日新聞にも一部報道されましたが、部外の機構に裁判官を研修に出しまして、社会教育といいますか、まあいまさら社会教育と言われるかもしれませんが、そういった外の世界を見る、そういうことによって自己修養に努めその結果を後輩裁判官にも及ぼしていくというような施策を講じてまいっておるのが現状でございます。
8 重ねて申し上げますが、私どもといたしましては、失われた信頼というものはそう簡単には回復できないということはよくわかっておりますが、その回復のために今後とも全力を挙げる覚悟でごごいます。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。