裁判官の職務に対する苦情申告方法

第0 目次

第1   裁判官の職務に対する苦情申告方法の種類
第2   裁判所総務課への不服申立て,最高裁判所への不服申出,注意処分及び分限裁判
第3   裁判官訴追委員会に対する訴追請求,及び裁判官弾劾裁判所
第4   裁判官再任評価情報の提供
第5の1 裁判官人事評価情報の提供
第5の2 裁判官の人事評価に関する国会答弁
第6   下級裁判所の裁判官の倫理の保持に関する申合せ
第7   偶発債務(係属中の訴訟等)集計表等

*1 以下の記事も参照してください。
① 裁判官の種類,再任拒否等
② 分限裁判及び罷免判決の実例
③ 岡口基一裁判官に対する分限裁判
④ 柳本つとむ裁判官に関する情報,及び過去の分限裁判における最高裁判所大法廷決定の判示内容
*2 裁判所HPの「裁判官の新しい人事評価制度の概要について」に,裁判官の人事評価に関する公式の説明が載っています。
*3 以下の文書を掲載しています。
① 裁判所法第82条に基づき裁判所の事務の取扱方法に対して最高裁判所に申出がなされた不服の処理要領(平成27年4月15日付の最高裁判所裁判官会議議決)
② 下級裁判所の裁判官の倫理の保持に関する申合せ(平成12年6月15日付の高等裁判所長官申合せ)
③ 裁判所職員の事件処理上の違法行為を理由とする国家賠償請求事件及び告知事件の報告等について(平成29年7月3日付の最高裁判所民事局長,刑事局長等の通達)
④ 「裁判所職員の事件処理上の違法行為を理由とする国家賠償請求事件及び告知事件の報告等について」の発出について(平成29年7月3日付の最高裁民事局第一課長等の事務連絡)
*4 insource HP「クレーム対応研修~検察・裁判所向け(1日間)」が載っています。
   ケーススタディでは,①科料納付遅延者の母親からのクレーム電話,②「たらい回しの上、待ちぼうけを食わせるのか」と激怒する男性,③不起訴記録の開示制限に納得しない女性及び④罰金未納者への出頭依頼文書に激高する男性を取り扱うみたいです。
*5 裁判所に対する国賠請求及び弁護士に対する懲戒請求その他裁判所又は弁護士を相手方とする事件(ゴーストライターを含む。)については,従前の事件処理を通じて特に高度の信頼関係を構築できている方に限り極めて例外的な場合に受任することがある程度であって,初回相談では一切取り扱っていません「弁護士会副会長経験者に対する懲戒請求事件について,日弁連懲戒委員会に定型文で棄却された体験談(私が情報公開請求を開始した経緯も記載しています。)」,及び「裁判所関係国賠事件」参照)。

第1 裁判官の職務に対する苦情申告方法の種類

   裁判官の職務に対する苦情(クレーム)申告方法の種類は以下のとおりです。

1 裁判所法等の法律に基づく制度
① 裁判所総務課への不服申立て
② 最高裁判所への不服申出
③ 裁判官訴追委員会に対する訴追請求

2 最高裁判所規則に基づく制度
① 裁判官再任評価情報の提供
② 裁判官人事評価情報の提供

第2 裁判所総務課への不服申立て,最高裁判所への不服申出,注意処分及び分限裁判

1 裁判所総務課への不服申立て
(1) 当事者は,裁判所総務課に対し,司法行政の監督権(裁判所法80条)の発動を求める趣旨で,裁判所の事務の取扱方法に対して不服を申し立てることができます(裁判所法82条)。
(2)ア 裁判官の職務について裁判所総務課に対して不服を申し立てたとしても,裁判の結論が変わることはあり得ません(裁判所法81条参照)。
イ 例えば,上告状についての印紙追貼命令およびこれに関連する措置等に対する救済は,民事訴訟法所定の不服申立方法によるべく,審級その他の定めから上訴による不服申立のみちのない場合においても,これに裁判所法82条に基づく司法行政監督上の措置を求めることはできません(最高裁昭和41年4月14日判決)。
(3)  司法行政の監督権は,司法行政事務として裁判官会議の議により行われるものの(裁判所法29条2項),大部分の権限は所長等に委任されています(下級裁判所事務処理規則20条1項,最高裁大法廷平成10年12月1日決定参照)。
 
2 最高裁判所への不服申出
(1) 以下の文書に詳細な取扱いが書いてあります。
① 裁判所法第82条に基づき裁判所の事務の取扱方法に対して最高裁判所に申出がされた不服の処理要領(平成27年6月9日最高裁判所事務総局会議了承)
② 裁判所法第82条に基づき裁判所の事務の取扱方法に対して最高裁判所に申出がなされた不服の専決処理について(平成28年6月9日最高裁判所事務総局会議了承)
(2) 統計数字については,「裁判所法第82条に基づき裁判所の事務の取扱方法に対して最高裁判所に申し出がなされた不服の処理状況」を参照してください。

3 注意処分
(1) 高等裁判所長官等が,事務の取扱及び行状について,担当裁判官に対して注意をすることがあります(下級裁判所事務処理規則21条)。
   例えば,34期の戸倉三郎東京高裁長官は,平成28年6月21日,ツイッターに不適切なつぶやきをしたり,縄で縛られた上半身裸の男性の画像を投稿したりした,46期の岡口基一東京高裁第22民事部判事について,下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意処分をしました。
(2) 平成29年度(情)答申第2号(平成29年4月28日答申)には以下の記載があります。  
   下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意は,事務の取扱いや行状についての改善を目的として行うものであって,懲戒処分のような制裁的実質を含んだ処分とは異なるものであると判断される。
   そして,裁判官については,憲法上その独立が強く保障されており,懲戒処分も,裁判官分限法に基づく分限裁判によって行われることとされていて(裁判所法48条,49条参照),下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意がされたとしても,そのことにより,当該裁判官に具体的な不利益が課されることは,予定されていない。また,裁判官の懲戒である分限裁判が確定したときは,官報に掲載して公告されることとされている(裁判官の分限事件手続規則9条)のに対し,下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意は,公表が予定されていない。 
 
4 分限裁判
(1) 裁判官は,職務上の義務に違反し,若しくは職務を怠り,又は品位を辱める行状があったときは,裁判官分限法で定めるところにより,分限裁判によって,戒告又は1万円以下の過料(裁判官分限法2条)に処せられます(裁判所法49条)。
(2) 地方裁判所,家庭裁判所及び簡易裁判所の裁判官に係る分限事件は高等裁判所が行い(裁判官分限法3条1項),最高裁判所及び各高等裁判所に係る裁判官に係る分限事件,及び高等裁判所がした分限裁判に対する抗告事件(裁判官分限法8条)は最高裁判所が行います(裁判官分限法3条2項各号)。
(3) 分限事件は,高等裁判所においては5人の裁判官の合議体で,最高裁判所においては,大法廷でこれを取り扱います(裁判官分限法4条)。
(4)   高等裁判所が分限事件を取り扱う場合,当該高等裁判所の事務分配に基づき,長官が裁判長となる特別部が担当します。
(5) 裁判官の懲戒処分の場合,通常の公務員の場合の停職,減給というものに相当する処分はありません。
   その理由は,①停職は実質上,一定期間罷免をするのと同じこととなる点で,これを懲戒処分として行うことは,弾劾裁判所による弾劾裁判によらなければ罷免されないとする憲法64条及び78条の精神に反する可能性があること,②減給は,在任中の裁判官の報酬の減額を禁止する憲法80条2項に違反する可能性があることによります(平成13年3月21日の衆議院法務委員会における房村精一法務省大臣官房司法法制部長の答弁参照)。
(6) 分限事件については憲法82条1項の適用はありません(最高裁大法廷平成10年12月1日決定)から,分限裁判は非公開となっています。
(7) 分限裁判が確定した場合,「裁判官分限事件の裁判の公示」として官報で公示されます(裁判官の分限事件手続規則9条)。

第3 裁判官訴追委員会に対する訴追請求,及び裁判官弾劾裁判所

1 総論
(1)  裁判官に以下の事由がある場合(裁判官弾劾法2条),裁判官訴追委員会の訴追に基づき,裁判官弾劾裁判所の裁判により罷免されます(憲法64条,国会法125条ないし129条,裁判官弾劾法参照)。
① 職務上の義務に著しく違反し,又は職務を甚だしく怠つたとき。
② その他職務の内外を問わず,裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
(2) 裁判官訴追委員会に対する訴追請求をすることで,裁判官の罷免を求めることができます。
   しかし,判決等の内容を理由に罷免された裁判官はいません。
 
2 裁判官訴追委員会
(1) 裁判官訴追委員会は,衆議院議員及び参議院議員各10人で組織されます(国会法126条1項,裁判官弾劾法5条1項)。
(2) 弾劾による罷免の事由が発生した時点(例えば,判決の日)から3年を経過したときは、罷免の訴追をすることができなくなります(裁判官弾劾法12条)。
   この3年は,訴追請求状を訴追委員会に提出する期限ではなく,提出後に訴追委員会が訴追審査事案を審議議決し,弾劾裁判所に訴追状を提出するまでの期間が含まれます。
(3) 裁判官訴追委員会が訴追請求状を受理してから審議議決に至るまでの期間は,半年から1年程度です。
(4) 罷免の訴追の請求をするためには,その事由を記載した書面を裁判官訴追委員会に提出する必要があります(裁判官弾劾法15条1項・4項)。
(5) 罷免の訴追を請求するための費用及び手数料は,不要です。
(6) 裁判官弾劾裁判所が罷免の訴追又は罷免の訴追の猶予をするためには,出席訴追委員の3分の2以上の多数でこれを決することとなっています(裁判官弾劾法10条2項)。
(7) 罷免の訴追をした事案の概要,罷免の訴追を猶予した事案の概要は,裁判官訴追委員会のHPに掲載されています(訴追猶予の決定につき裁判官弾劾法13条)。
(8) 裁判官訴追委員会が訴追するかどうかを議決した場合,訴追請求人に対し,議決結果を文書で通知します。
   ただし,裁判官訴追委員会の議事は非公開です(裁判官弾劾法10条3項)から,決定理由は教えてもらえません。
(9) 裁判官訴追委員会の訴追しない決定に対して不服申立てをすることはできません。
(10) 裁判官訴追委員会HPに掲載されている訴追審査事案統計表によれば,昭和23年から平成27年までの合計は以下のとおりです。
① 受理事案数が1万8672件,訴追が48件(ただし,被審査裁判官の実員は9人),訴追猶予が12件(ただし,被審査裁判官の実員は7人)
② 訴追請求人数は,最高裁判所が8人,弁護士が2664人,国民が89万3701人です。
 
3 裁判官弾劾裁判所
(1) 総論
ア 裁判官弾劾裁判所は,衆議院議員及び参議院議員各7人で組織されます(国会法125条1項,裁判官弾劾法16条1項)。
イ 下級裁判所の裁判官の報酬については,当該裁判官が逮捕又は勾留されたことを理由として減額することはできませんし,裁判官弾劾裁判所による職務停止決定(裁判官弾劾法39条)があった後でも報酬等は支給され続けます(平成21年4月10日付の「参議院議員前川清成君提出弾劾手続き中の裁判官に対する給与支払いに関する質問に対する答弁書」参照)。
ウ 裁判官弾劾裁判所は,公開の法廷で審理を行い,罷免するかどうかの裁判をします(裁判官弾劾法20条)。
エ 弾劾裁判所の判決は官報で公示されます(裁判官弾劾法36条)。
オ 弾劾裁判所が罷免の裁判を宣告した場合,その裁判官は直ちに罷免されます(裁判官弾劾法37条)。
カ 罷免された裁判官は,罷免の裁判の宣告日から5年を経過して相当とする事由があるような場合,資格回復の裁判により資格を回復することができます(裁判官弾劾法38条)。
(2) 弾劾裁判の事例
   裁判官訴追委員会が罷免の訴追をして,裁判官の罷免判決が出た事例はこれまでに9件だけであり,高輪1期以降の裁判官が対象となったのは以下の5件だけであり,その内容は以下のとおりです(裁判官訴追委員会HPの記載を参照しています。)。
① 昭和52年3月23日罷免判決
   あたかも検事総長であるかの如く装って総理大臣に電話をかけ,同人に対し,いわゆるロッキード事件に関して虚偽の捜査状況を報告した上,前内閣総理大臣及び自民党幹事長の取り扱い方について直接の裁断を仰ぎたい旨申し向け,その言質を引き出そうと種々の問答を行い,その会話を録音した者があるところ,その録音テープの内容がニセ電話であること,また,その問答が新聞で報道されれば政治的に大きな影響を与えることを認識しながら,東京都内のホテルにおいて,新聞記者2人に同録音テープを再生して聞かせた,19期の鬼頭史郎裁判官(対象行為当時,京都地裁判事補)(検事総長ニセ電話事件)
② 昭和56年11月6日罷免判決
   破産事件を担当中,破産管財人である弁護士から,ゴルフクラブ2本,外国製ゴルフ道具1セット,キャディバッグ1個及び背広三つ揃2着の供与を受けた,25期の谷合克行裁判官(対象行為当時,東京地裁判事補)
③ 平成13年11月28日罷免判決
   少女3名に対し,同少女らが18歳に満たない児童であることを知りながら,対償として現金を供与することを約束して児童買春をした,38期の村木保裕裁判官(対象行為当時,東京高裁刑事部判事職務代行)
④ 平成20年12月24日罷免判決(平成28年5月17日資格回復決定)
   裁判所職員の女性に対し,その行動を監視していると思わせたり,名誉や性的羞恥心を害したりするような内容の匿名のメールを繰り返し送信したりして,ストーカー行為をした,36期の下山芳晴裁判官(対象行為当時,甲府地家裁都留支部判事)
⑤ 平成25年4月10日罷免判決
   京阪電鉄京阪本線の寝屋川市駅から萱島駅(かやしまえき)までの間を走行中の電車内において,録画状態にした携帯電話機を女性乗客のスカートの下に差し入れ,下着を動画撮影した,新63期の華井俊樹裁判官(対象行為当時,大阪地裁判事補)

第4 裁判官再任評価情報の提供

1 下級裁判所の裁判官の任期は10年であり(憲法80条本文後段,裁判所法40条3項),再任されなかった場合,任期終了と同時に裁判官を退官することとなります。
   これがいわゆる「再任拒否」です。

2  裁判官「再任」評価情報の提供は,平成15年5月1日施行の下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則(平成15年2月26日最高裁規則第6号)11条に基づく制度であり,所属裁判所を管轄する高等裁判所の事務局総務課長に対し,郵送(親展表示)又は持参する方法で提出します。
   そして,提供された再任評価情報は,下級裁判所裁判官指名諮問委員会の地域委員会がとりまとめた上で,中央の委員会に報告されています(規則13条)。

3 下級裁判所裁判官指名諮問委員会は,最高裁判所の諮問に応じて,下級裁判所裁判官としてとして任命されるべき者を指名することの適否等について審議し,その結果に基づき,最高裁判所に意見を述べる委員会です(規則2条)。

4 その余の詳細は「裁判官再任評価情報の提供」を参照してください。

第5の1 裁判官人事評価情報の提供

1 裁判官「人事」評価情報の提供は,平成16年4月1日施行の裁判官の人事評価に関する規則(平成16年1月7日最高裁規則第1号)3条2項後段に基づく制度であり,所属裁判所の事務局総務課長に対し,郵送(親展表示)又は持参する方法で提出します。

2  裁判官「人事」評価情報の提供は,評価権者(例えば,地裁所長)による人事評価のための情報提供ですから,時期を限定せずに一年中受け付けています。
  ただし,裁判官に対する裁判所での人事評価は毎年8月1日を基準日として行われますから,7月頃から評価権者による裁判官の面接が始まります。
   そのため,日弁連では,6月末を集中期間としてこの時期に裁判官人事評価情報を集めて裁判所に提供するように努力しています。

3  裁判官の人事評価に関する規則の運用について(平成16年3月26日付の最高裁判所事務総長通達)(規則6条参照)には,「裁判所外部からの情報の把握」として以下の記載があります。
   裁判所外部からの裁判官の人事評価に関する情報については,その裁判官が所属する裁判所(簡易裁判所である場合は,その所在地を管轄する地方裁判所)の総務課において受け付ける。この場合においては,情報の的確性を検証できるようにするという観点から,原則として,当該情報を提供した者の氏名及び連絡先を記載した書面であって具体的な根拠となる事実を記載したものによって,情報の提供を受けるものとする。

4 その余の詳細は「裁判官人事評価情報の提供」を参照してください。

第5の2 裁判官の人事評価に関する国会答弁

 「裁判官の人事評価に関する国会答弁」に移転させました。

第6 下級裁判所の裁判官の倫理の保持に関する申合せ

1   下級裁判所の裁判官の倫理の保持に関する申合せ(平成12年6月15日高等裁判所長官申合せ)を掲載しています。

2 下級裁判所の裁判官の倫理の保持に関する申合せは,裁判官においても,平成12年4月施行の国家公務員倫理法,及びこれに基づく国家公務員倫理規程及び裁判所職員倫理規則の趣旨・内容を尊重して行動することが望ましいのではないかということで作成されました。

3 裁判官は,事件関係者(担当事件の代理人弁護士等を含む。)といった利害関係者との間で飲食を伴う会合等をしてはなりません。

第7 偶発債務(係属中の訴訟等)集計表

「偶発債務(係属中の訴訟等)集計表」に移転させました。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。