法務省出向中の裁判官の不祥事の取扱い
第0 目次
第2 46期の近藤裕之裁判官(身分上は検事です。)の場合
第3 59期の飯島暁裁判官(身分上は検事です。)の場合
第4 裁判官の身分を有する者が不祥事を起こした場合の取扱い
*1 以下の記事も参照してください。
① 裁判官の職務に対する苦情申告方法
② 分限裁判及び罷免判決の実例
③ 出向裁判官の名簿
④ 法務総合研究所
*2 人事院職員福祉局審査課が作成した,「国家公務員の服務・懲戒制度」(平成24年度版)及び「国家公務員の服務・懲戒制度」(平成29年度版)を掲載しています。
*3 官職要覧ブログの「裁判所の官職」,「法務省の官職」及び「検察庁の官職」が非常に参考になります。
第1 一般論
1 裁判官人事(最高裁人事)として,裁判官が法務省等の行政機関に出向している場合,依願退官した上で外務省に出向している人を除き,検事の身分を有しています(「現職裁判官の分布表」参照)。
そして,法務省出向中の裁判官について,国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行(例えば,女性のスカート内の盗撮)があったような場合,法務大臣による懲戒処分の対象となります(国家公務員法82条1項)
2 懲戒処分の場合,検察官適格審査会の議決(検察庁法23条)は不要です(検察庁法25条ただし書)。
3 検察官の場合,60%以下の給料しか受け取れなくなる起訴休職制度(国家公務員法79条2号,一般職給与法23条4号)がありません(検察庁法25条本文参照)。
そのため,懲戒処分としての免職,停職又は減給の処分(国家公務員法82条1項)を受けない限り,不祥事を起こした検察官は引き続き従前と同額の給料を支給されることとなります。
4 処分説明書の様式は,処分説明書の様式および記載事項等について(人事院HPの昭和35年4月1日付の人事院事務総長通知)に載っています。
5 その余の詳細は「法務省出向中の裁判官に不祥事があったの取扱い」を参照してください。
2 法務省出向中の裁判官が懲戒免職又は停職処分となった場合の取扱い
(1) 懲戒免職となった場合
ア 退職手当及び弁護士資格
(ア) 裁判官は,退職手当を支払ってもらえません(国家公務員退職手当法12条1項1号)し,懲戒免職の日から3年間は弁護士となる資格を有しません(弁護士法7条3号)。
また,懲戒免職の日から3年を経過した後であっても,登録請求を受けた単位弁護士会としては,資格審査会の議決に基づき,日弁連に対する登録の請求の進達を拒絶することができますし(弁護士法12条1項2号),日弁連は,資格審査会の議決に基づき,登録を拒絶することができます(弁護士法15条1項)。
(イ) 在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたことを疑うに足りる相当な理由があると思料される場合,退職手当の支払を差し止められることがあります(国家公務員退職手当法13条2項2号)。
イ 年金
平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されるものの,職域加算額は半分しか支給されません(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されるものの,終身退職年金は支給されません(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。
(2) 停職処分を受けた後に辞職した場合
ア 退職手当及び弁護士資格
(ア) 裁判官は,退職手当を支払ってもらえます(国家公務員退職手当法12条1項参照)。
ただし,停職期間の月数の2分の1に相当する月数を退職手当の算定の基礎となる在職期間から除算されます(国家公務員退職手当法7条4項)。
(イ) 弁護士登録との関係では,法令上は特段の制限がありません。
ただし,単位弁護士会の登録審査(「弁護士登録制度」参照)が非常に慎重なものになると思われます。
イ 年金
平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されますし,職域加算額は,停職期間に相当する部分の25%が削られるだけです(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されますし,終身退職年金は,停職期間に相当する部分の50%が削られるだけです(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。
3 法務省出向中の裁判官が刑事罰を受けた場合の取扱い
(1) 禁錮以上の刑に処せられた場合
ア(ア) 執行猶予が付いたとしても,①検事としての身分を自動的に失います(国家公務員法76条・38条2号。規定の合憲性につき最高裁平成19年12月13日判決参照)し,②退職手当を支払ってもらえません(国家公務員退職手当法13条及び14条。規定の合憲性につき最高裁平成12年12月19日判決参照)し,③裁判官の任命資格を失います(裁判所法46条1号)。
また,執行猶予期間が満了して刑の言渡しが効力を失う(刑法27条)までの間,弁護士となる資格を有しません(弁護士法7条1号)。
(イ) 執行猶予が付けられずに実刑判決を受けた場合,刑の執行が終わり,罰金以上の刑に処せられないで10年を経過した時点で,懲役又は禁錮の刑の言渡しは効力を失います(刑法34条の2第1項前段)から,その時点で弁護士となる資格を再び取得することとなります。
(ウ) 在職期間中の刑事事件に関して起訴された場合,退職手当の支払を差し止められることがあります(国家公務員退職手当法13条1項2号)。
イ 平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されるものの,職域加算額は半分しか支給されません(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されるものの,終身退職年金は支給されません(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。
(2) 罰金刑に処せられた場合
ア ①検事としての身分を自動的に失うわけではありません(ただし,盗撮の飯島暁裁判官のように辞職するのが通常と思われます。)し,②懲戒免職にならない限り退職手当を支払ってもらえます(国家公務員退職手当法12条1項参照)し,③裁判官の任命資格を失いません(裁判所法46条参照)。
また,弁護士となる資格を有します(弁護士法7条参照)ところ,医師法4条3号のような,罰金刑に処せられた者に関する条文が弁護士法にあるわけではないものの,単位弁護士会の登録審査(「弁護士登録制度」参照)が非常に慎重なものになると思われます。
イ 退職共済年金,公務員厚生年金及び年金払い退職給付については,特段の不利益はありません。
(3) 罰金刑の位置づけ
ア 罰金刑は前科となりますが,罰金以上の刑に処せられないで5年を経過した場合,罰金刑の言渡しは効力を失います(刑法34条の2第1項後段)から,市区町村の犯罪人名簿から記載が削除されます(前科記録の抹消)。
イ 検察庁の前科調書(犯歴事務規程13条2項)から前科の記載が削除されるのは,有罪の裁判を受けた者が死亡したときだけです(犯歴事務規程18条)。
4 法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体の法的不利益
法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体は,裁判官又は弁護士の資格に何らかの法的影響を及ぼすものではありません。
ただし,例えば,アメリカに入国する場合,逮捕歴があるとビザ免除プログラム(VWP)を利用できなくなる結果,観光目的でアメリカに入国する場合であってもビザを取得する必要が出てくることとなります(在日米国大使館HPの「ビザ免除プログラム」参照)。
5 刑事責任に付随する資格制限の内容等の詳細
「加害者の刑事責任,行政処分,検察審査会等」を参照してください。
6 共済年金の職域加算額,及び年金払い退職給付等
(1)ア 国家公務員の場合,平成27年9月30日までに勤務した分については,共済年金に職域加算がありました。
平成27年10月1日以降に勤務した分については,年金払い退職給付が発生しており,有期退職年金(10年又は20年支給ですが,一時金も選択できます。)及び終身退職年金の半分ずつとなります。
イ 退職共済年金の基本額は老齢厚生年金に対応し(年金の2階部分),退職共済年金の職域加算額は企業年金等に対応していました(年金の3階部分)。
また,老齢厚生年金の受給権は懲戒免職等による影響を受けませんから,そのこととの均衡を図るため,退職共済年金の基本額の受給権は懲戒免職等による影響を受けないのだと思います。
(2) 平成24年の国家公務員共済組合法等の改正により,平成27年10月1日,厚生年金及び共済年金が統合されたり,共済年金の職域加算が廃止されたりしました(被用者年金制度の一元化)。
そして,共済年金の基本額は公務員厚生年金に,共済年金の職域加算額は年金払い退職給付に引き継がれました。
(3) 共済年金の職域加算額は,共済年金の基本額の10%から20%ぐらいでした。
(4) 国家公務員の年金払い退職給付の創設については,財務省広報誌「ファイナンス」2013年1月号が参考になります。
これによれば,標準報酬月額36万円で40年加入の場合,年金払い退職給付のモデル年金月額は約1.8万円とされています。
第2 46期の近藤裕之裁判官(身分上は検事です。)の場合
1 平成26年3月14日に法務省女子トイレの個室内を盗撮した近藤裕之法務省大臣官房財産訟務管理官(裁判官出身です。)の場合,同月30日に法務省大臣官房付に異動となり,同年5月1日,東京都迷惑防止条例違反により罰金50万円の略式命令を受けるとともに,国家公務員法82条1項1号及び3号に基づいて懲戒免職となりました。
2 法務省大臣官房付となっていた検事兼法務事務官の近藤裕之に交付された平成26年5月1日付の処分説明書によれば,処分の理由は以下のとおりです。
被処分者は,用便中の女性らを盗撮する目的で,平成26年3月14日,東京都千代田区霞が関の法務省女子トイレの個室内において,動作撮影可能なACアダプター型カメラを作動させ,同カメラを使用して,用便中の氏名不詳者らの大腿部等を撮影し,もって公衆が通常衣服の一部を付けない状態でいる場所において,人の通常衣服で隠されている身体等を写真機その他の機器を用いて撮影し,人を著しく羞恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような行為をしたものである(東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的行為等の防止に関する条例違反)。
3 平成26年5月13日付の「衆議院議員鈴木貴子君提出法務省幹部職員による不祥事に関する質問に対する答弁書」にあるとおり,近藤裕之裁判官の場合,退職手当を支給してもらえませんでした(国家公務員退職手当法12条1項参照)。
4 平成16年12月13日,東京地裁における裁判修習中に女性用トイレに侵入してビデオカメラを設置したということで,平成17年1月5日,第58期司法修習生が建造物侵入罪の容疑で逮捕されました(紀藤正樹弁護士ブログの「なんということでしょう!司法修習生逮捕:東京地裁の女子トイレ侵入,ビデオ設置」)。
当該司法修習生は嫌疑不十分ということで起訴されませんでしたが,その時期,近藤裕之裁判官は東京地裁判事でした。
第3 59期の飯島暁裁判官(身分上は検事です。)の場合
1(1)ア 平成28年8月26日(金)午後6時半頃,飯島暁(さとる)法務総合研究所教官(裁判官出身です。)が,JR新宿駅ホームの階段で,女性のスカート内にスマートフォンを差し入れ,下着などを動画撮影したということで警視庁新宿署に逮捕され,送検後の検事調べで被疑事実を認めて釈放されたみたいです。
イ 飯島暁法務総合研究所教官は,同年9月15日,東京都迷惑防止条例違反により罰金50万円の略式命令を受けるとともに,同日,停職3ヶ月の懲戒処分を受けて辞職しました。
(2) 平成12年5月24日,JR埼京線の電車内で女性に痴漢をして警視庁四谷署に現行犯逮捕された法務総合研究所教官(プロパーの検事です。)の場合,女性と示談が成立して告訴が取り下げられて不起訴処分となりましたが,同月26日付で懲戒免職となりました。
ただし,同検事は,同年7月24日,「痴漢行為は事実に反し,処分は不当」として,国家公務員法に基づき人事院に審査請求をしましたが,審査請求の結果がどうなったかは分かりません。
2(1)ア 飯島暁裁判官の任官後の経歴は,大阪地裁判事補(平成18年10月16日~)→山口家地裁判事補(平成21年4月1日~)→山口家地裁判事補・山口簡裁判事(平成21年10月16日~)→鹿児島家地裁判事補(平成24年4月1日~)→法務総合研究所研修第三部教官(平成27年4月1日~)です。
全裁判官経歴総覧によれば,飯島暁裁判官は昭和48年8月12日生の43歳であり,実務修習地は千葉でした(裁判官の生年月日は情報公開の対象となることにつき,「行政機関の情報公開」参照)。
イ 判事補を3年以上した場合,簡裁判事の任命資格が発生します(裁判所法44条1項1号)から,飯島暁裁判官のように任官してから3年が経過した時点で,判事補・簡裁判事となる人が多いです。
(2) 飯島暁裁判官の顔写真は,「裁判官紹介(あなたの街の裁判官)」(山口地裁HPに掲載されていたものを転載したもの)に載っています。
3 飯島暁に交付された平成28年9月15日付の処分説明書によれば,処分の理由は以下のとおりです。
被処分者は,平成28年8月26日午後6時半頃,東京都新宿区所在のJR新宿駅ホームにおいて,所持していた動画撮影機能付き携帯電話を,氏名不詳の女性の後方からスカート内に差し向けてスカート内の下着などを撮影し,もって公共の場所において,人を著しく羞恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような行為をしたものである。
4(1)ア 平成28年8月27日(土)に熱海後楽園ホテル(熱海市)で司法研修所第59期10周年記念大会があり,59期弁護士の私も参加しました。
しかし,記念大会当日を警察署留置場で過ごした裁判官(身分上は検事)がいたことなど,誰も想像すらしなかったと思います。
イ ちなみに,熱海後楽園ホテルでは毎年,司法研修所の10周年記念大会が開催されてきましたが,会場として使われていたホテル旧館(=みさき館)が平成28年9月に取り壊され,東京オリンピックを見据えて建て替えられます(平成28年8月27日付の伊豆新聞ニュース参照)。
そのため,現行60期以降の10周年記念大会はどこで開催されるのかしら?と思います。
(2) 司法研修所記念大会は,10周年は熱海で開催され,20周年は京都で開催され,その後は25周年,30周年,35周年,40周年という風に5年に1度開催されるそうです。
第4 裁判官の身分を有する者が不祥事を起こした場合の取扱い
1(1) 電車内で女性のスカート内を盗撮した新63期の華井俊樹判事補のように裁判官の身分を有している者が不祥事を起こした場合,裁判官分限法に基づく分限裁判の対象となるか,裁判官弾劾法に基づく裁判官弾劾裁判所の罷免判決の対象となります(「分限裁判及び罷免判決の実例」参照)。
(2) 裁判官の場合,60%以下の報酬しか受け取れなくなる起訴休職制度(国家公務員法79条2号,一般職給与法23条4号)がありません(裁判所法48条参照)。
そのため,罷免判決を受けない限り,不祥事を起こした裁判官は引き続き従前と同額の報酬を支給されることとなります。
2 新63期の華井俊樹判事補に関する,①訴追請求関係文書,及び②裁判官弾劾裁判所平成25年4月10日判決を掲載しています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。